サラダンはフランス、南ローヌの北端、ローヌ川西岸の高地サン・マルセル・ダルディシュに18haのブドウ畑を持つドメーヌ。その歴史は古く1422年からブドウ造りを行っていたことが、村の古文書に記されている。サラダンの家族がこの地で営々として築きあげてきた歴史が今の世代に受け継がれている。
サラダンの名称は十字軍からエルサレムを奪還したイスラムのスルタン・サラディンに由来する。フランス王がエルサレム遠征の途中にサン・マルセル・ダルディシュに立ち寄ったことにもよるが、敵ではあるが当時のスルタン・サラディンの名声はヨーロッパ全土に轟渡っていたことが伺える。勇気・機智・慈愛に富む名君主サラディンは東西の陣営を問わず時代の英雄として歴史にその名を刻んでいる。

現在、ワイナリーを運営するのは、故ルイ・サラダンの二人の娘。サラダン家21代目のマリー・ローランスとエリザベット。姉、マリー・ローランスは醸造学校を卒業後、フランス国内でギガルやマルセル・リショー、またカリフォルニアではボニードーンの創始者ランドール・グラム、アルゼンチンではミッシェル・ローランのヴァル・ド・フローレス、チリのボタルクラ社などの著名ワイナリーでワイン造りを実践で学んだ後、ドメーヌに帰る。妹のエリザベットは、インターローヌ（ローヌワイン委員会）でワインのマーケティングを実践後、ドメーヌに合流して現在は姉と共にワイン造りを行いながら主に販売マーケティングを行っている。
ワイン造りの最新技術を学んだマリー・ローランスは現代のワイン造りに必要な衛生管理や最新技術をドメーヌに取り入れた。父ルイの「ワイン造りは知識だけではなく感じることが大切。ワインが語りかけてくる声を聞け」という教えのもと、代々築かれたワイン造りの伝統の上に自らの新たな感覚を融合させ、純粋で美しいワインを生み出している。

サラダンのブドウ畑には一度も化学薬品が使用されたことがない。ルイは「誰も農薬を売りに来なかったから」とさらりと言うが、他の生産者の畑が隣接せず600年を超える有機栽培という恵まれた自然環境でのブドウ栽培が今に引き継がれている。マリー・ローランスとエリザベットはエコセール（フランスに本社を置く世界最大の国際有機認定機関）に申請し、2010年に有機栽培の認定を取得した。
しかしながらサラダンのワインラベルにはBIO認定の記載は無い。勿論、2010年以降もBIOの認定は取得し続けている。ベースにあるのは父ルイの考え方で、彼は生前、姉妹に「我々は600年以上も栽培法を変えていない、農薬を使った生産者が農薬使用とラベルに書くべきだ」と語っていた。マリー・ローランスとエリザベットもラベルにBIOの認定を記載することはBIOの産物であることを消費者に分かりやすくするために有効とは理解はしている。一方、サラダンのワインはその真価を理解する顧客達に支えられて現在のドメーヌが存続してるとも言えよう。顧客の多くは毎年のようにドメーヌを訪問しサラダンのワインへの理解を深め、購入し続けている。またマリー・ローランスとエリザベットはBIOの認証をラベルに記載することは、よくあるマーケティングとしてのBIO表示を行う生産者とイメージを混同され、重要な顧客達に誤解を与える事にもなると危惧している。

サラダンのブドウ畑はサン・マルセル・ダルディシュの周囲にあり、丘の中腹、樫の木に囲まれた石灰粘土質の畑はコート・デュ・ローヌのAOCに指定され、ここでは「ロイ」や「トラララ」用のブドウが造られる。またサン・マルセル・ダルディシュのヴィラフランキエンヌの畑は地表から5～6ｍの深さに丸石が重なり合うガレ・レールという独特な土壌を持っていて「ペル・エル」、「ファン・デ・リュンヌ」などのキュヴェが生み出される。ここはコート・デュ・ローヌ・ヴィラージュAOCに指定されている。
ワイン造りにおいても僅かな亜硫酸塩の使用以外は一切の添加物や副材料を使用せずブドウその物の味わいを生かすワイン造りが行われている。全て手摘みによる収穫、自生酵母での発酵、重力式のシステムで醸造を行い赤ワインは木樽の大樽、セメントタンクでの熟成、白とロゼは地下タンクで発酵させステンレスタンクで熟成が行われている。醸造に関しては数値より試飲による感覚を重視して行われる。父ルイから受け継いだ類稀なワイン造りに関する感性を感じざるを得ないワインに仕上がっている。

自然環境への関心が高まっている今、サラダンのナチュラルでピュアなワインは、フランスでも注目を集め、有名レストランの「アルページュ」、「ル・グラン・ヴェフール」、「ラセル」、「メゾン・ピック」等、フランス国内だけでも208ヶ所のレストランで提供され、ワインショップとして有名なデパート　ギャラリー・ラファイエットでも大きく展開された他、フランス国内153のワインショップで販売されている。（2024年7月現在）