ポルトガルのワインのコラム
父から子へと受け継がれるワイナリー
「酒とバラの日々」をご存じでしょうか?ヘンリー・マンシーニ作曲で、同名の映画のテーマ音楽ですが、数多くのミュージシャンがカバーするスタンダードナンバーです。この曲名、正確には「ワインとバラの日々」(Days of Wine and Roses)なのです。1909年、アメリカ・ワシントン州で始まったとされる父の日。母の日にはカーネーション、父の日にはバラの花(バラの色については諸説あり)を贈るのが習わしとのことです。そこで、父の日には素敵なワインとバラの花、「ワインとバラの日々」をお父様に贈りましょう。
今回は、偉大な父親からワイナリーを受け継いだ生産者と、継承の只中にある生産者をご紹介します。
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(左)ルイス・ローレンソ(キンタ・ドス・ロケス)
(右)ジル・コレ(ドメーヌ ジャン・コレ)
最初のご案内は「髭のジル」で有名な、フランス・ブルゴーニュ地方シャブリの名門生産者「ドメーヌ ジャン・コレ」です。生粋のシャブリジャン、19世紀末に流行したスタイルの髭を蓄えたジル・コレは昨年、当主を長男のロマンに譲り、現役からの引退を表明されました。
1985年生まれのロマン、大きな体躯の父親とは対照的であった華奢な若者も、2008年に23歳でドメーヌの醸造長として活動を開始し、ビオ栽培導入からワイン造りまで改革を進めました。彼の造るシャブリはフランスで、そして世界で絶賛されるようになりました。フランスの辛口評論家ミッシェル・ベタンヌは、コレのシャブリにトップランクの評価を下し、日本の専門誌でも「10,000円以下の全ブルゴーニュ白ワイン」のベスト3に入る等、評価は上がり続けています。
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(上)来日したジルとロマン(2012年)
(下)美しいシャブリ、生命力に溢れたビオロジック(有機栽培)のコレの畑
ロマンは、コレ家のワイン造りは変化したのではなく、進化したと言います。ビオ栽培にしてもキュヴェごとに醸造法を変えるなど、すべては父ジルが始めたことで、自分はそれを現代の技術で進化させたに過ぎないと語りました。ロマンに醸造長を任せた後、ジルはワイン造りには一切口を挟まず、今自分はロマンが仕事を行い易いよう、ドメーヌの環境を整えることを全力で行っていると語ります。
1792年から営々と続くワイン造りの歴史、ジルとロマンのような関係で父から子に引き継がれてきたことが、今日の名声を築いたのだと納得させられました。
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(左)6歳のロマン、父ジル(左端)、祖父ジャン、曾祖父マリウスの4世代の写真(1991年)
(右)現在のロマン、35歳
■ シャブリ プルミエ・クリュ ヴァイヨン: ジャン・コレを代表するワイン。オーガニック認定。
■ジル・エ・ロマン・コレ クレマン・ド・ブルゴーニュ: 父ジルと息子ロマンの2代で協力して造り上げたスパークリングワイン。泡のあるシャブリ!
父の日にお勧めのワイン、もう一つはポルトガル中北部ダン地方を代表する「キンタ・ドス・ロケス」です。こちらはまだ世代交代したわけではありませんが、現当主ルイス・ローレンソさんは着々とその準備を進めています。
キンタ・ドス・ロケスはルイスさんの奥様ルィーザさんの家系で、ルィーザさんのお父さんも鉄鋼関係のバリバリの商社マンだったオリヴェイラさんが婿に入って、家業を発展させてきました。ルイス・ローレンソさん自身も数学の教師だったのですが、大学の同級生だったルィーザさんと結婚し、全く専門外のワイン造りに入っていったという経緯があります。2代続いたマスオさんでしたが、ルイスさんとルィーザさんの間にはマヌエル(長男)、ジョゼ(次男)、ルィーザ(長女)の3人の子があり、ジョゼは既にワイナリーに入りワイン造りとプロモーションを行っており、長らく大学で研究活動を行ってきた長男のマヌエルもワイナリーに戻り、主に経営や財務面で活動するようになりました。
今後、ワイナリーは緻密なマヌエルと、陽気で外向的なジョゼがそれぞれの得意分野で活躍し、ワイナリーを更に盛り上げてゆく事が期待されます。
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(上)美しい自社畑をバックにルイスさんとルィーザさん
(下)次世代を担う3人。右からマヌエル(長男)、ジョゼ(次男)、ルィーザ(長女)
ルイスさんがワイナリーに入った時、ワイン造りの知識が無い彼は、数学者的な分析能力を生かしてこの地のワイン造りを変えるまでに至ります。当時、この地方のワイン造りは、数多くのブドウ品種をブレンドするものでした。法律的にも、単一品種は原産地呼称(DO)が認められませんでした。そんな中、ワイン造りを始めたルイスさんは、より良いブレンドワインを造るために、それぞれのワインの特性を知りたいと思い、単一品種での醸造を試験的に実施して行きます。
ダン地方の代表的な白葡萄エンクルザード種を単一で醸造し、しかもフレンチオーク樽で熟成させるという1990年当時考えられないワインを造り出して、DO規格は取れないので当初テーブルワインとして市場に出したところ大ヒットとなり、その後、この地のワイナリーが挙って単一品種のワインを造る事になります。DO委員会もこの状況に単一品種のDO規格を認めざるを得なくなりました。ルイスさんはダン地方に単一品種のワイン造りを導入したパオイオニアでした。
そんな父の背中を見てきたマヌエルとジョゼが今後、どのようにワイナリーを進化させてゆくか、楽しみで目が離せません。
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(左)ポルトガル・リスボンの試飲会での様子。各地でプロモーション活動を行う
(右)来日したルイスさんとジョゼ(2018年)
■ エンクルザード: 単一品種、フレンチオーク使用。英国のワイン評論家ジャンシス・ロビンソンが、この10年の最も偉大なワイン10本に選んだワイン。
■トウリガ・ナショナル: キンタ・ドス・ロケスを代表する赤ワイン。先代オリヴェイラ氏が守り抜いたダン地方を代表する高貴品種。